「もの」
モノはそれぞれの時代の文化のコンテナである
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デザインとは物の仕掛けをつくることである。環境設計や建築設計となると空間が対象であってものではないと言えそうだが、それさえ素材や部品を構成し、自然環境の植物さえも一つの物として、素材として構成してつくるのだから結局、物の仕掛けである。
「もの」は日本では物質としての物をはみだして色々な形で登場する。「もののけ」「ものがなし」「ものうい」「もののあわれ」「ものおじ」「ものおぼえ」「ものがたり」「ものぐさ」「ものぐるしい」「ものさし」「ものしずか」「ものしり」「ものずき」「ものすごい」「ものにする」「もの足りない」と枚挙に暇がない。
「もの」を辞書で見る、1、存在すると考えられるすべて。2、われわれが見たり触れたりできる、具体的な形を持っている物質。物体、物品。3、行為の対象となる何か。4、有用な働きをする何か。5、物事(の間に見られる秩序や因果関係)。6、何か正体は分からないが、人間を超えた不思議な力を持ち、人間の精神生活を支配する存在。もののけ。『新明解国語辞典・三省堂』とある。
物をモノとするときはこの物質としての物に霊を意味する意味をも加えて表現するときに用いるようにしている。日本語は本来の意味に含蓄があり、物質としての物をいうときにもその背後に霊の意味を潜在させていたりするからである。以下、物が持つ九つの意味を列記し解説しよう。
先ず、使用するための物がある。人間のつくる物の発生はここからであり、器は何かを盛るために生まれた。道具としてのものであり、使用価値とも言うべき物の存在である。これを「1.身体機能強化目的」と言おう。道具は人の能力を強化するために登場したからである。器は手の、コンピュータは脳の機能強化である。
次に「2.経済活動の対象」としての物である。商品であり、交換価値を持ち、財産ともなる、現代の産業社会に欠かせない物の存在形式である。
物はまたデザイナーにとって思想の表現である。芸術作品もそうだがそうでなくともデザイナーやものをつくる事業家にとっては自分のつくる物は「3.意味表現メディア」である。ここでは物は一つの言語と同じ存在である。
同じ表現でも贈答品は送る人の心を伝えることが主な目的であるから「4.気持ち伝達のツール」である。贈答産業というジャンルがあるほどで現代では重要な物の機能である。
物はまたそれを持つ人の身分を象徴したり、社会的立場を示したり、職業を表現したりする。学生服は学生であることの表現になり、職人の衣装は職人の意識を保つシンボルだったり、若者の衣装や持ち物は同じ仲間であることの象徴だったりする。物が人の社会的な立場の「5.象徴と記号」の役割を果たしている。
物をコレクションする人がいる。切手や時計、骨董品、書画など様々なものが対象になっている。ここでは物は愛好の対象なのだがそれを越えて集めること、集めた物を眺めることに喜びがある。スウォッチのようにそれを意識して商品化している場合があるほどである。「6.コレクションの対象」である。
フェティシズムというのがある。デザインの究極はこのようにモノと人の関係が使用価値を越えて愛情の対象となることだと思うのだが、一種の倒錯と理解されているきらいもある。正常と異常の境界かもしれない。モノマニアである。「7.愛好の対象」である。
「8.交歓の媒介」としての物の存在もある。ゲーム機やたまごっち、カードなど人と人が気持ちを伝えあい、歓びを交わす道具としての物である。近ごろでは通信機であるコンピュータや携帯電話も情報を通じて交歓するのだからこの部類に属するといえそうである。
最後に「9.操作欲の対象」としての物の存在である。車も機械もその本来の目的を越えて操作自体が楽しいというものがある。操作が厄介だという段階を過ぎ、操作が難しければ難しいほど操作の歓びが増えたりするのは面白い。
ここまでの9つの物の存在形式、意義を列挙すると次のようになる。
「1.身体機能強化目的」、「2.経済活動の対象」、「3.意味表現メディア」、「4.気持ち伝達のツール」、「5.象徴と記号」、「6.コレクションの対象」、「7.愛好の対象」、「8.交歓の媒介」、「9.操作欲の対象」。
この分類は仮説でしかないがこうして見るとモノが人間の活動に相当重要な役割を果たしており、モノ研究を通じて人間研究が可能ではないかと思わせる。英語での物の表現を考えてみると、次の五つがある。
thing……物事、文物、風物、物品、所持品、芸術作品
goods……品物、商品、財産、所有物、貨物
object……事物、物体、もの、目的物、対象、客体
product……産物、生産物、生産品、結果、成果、生成物
artifact……(文化的に価値のある)人工物、直接的な結果
英語では同じ物でもその役割によって表現が異なっていて、誤解を生まないが含蓄のある意味ということからは縁が遠い。
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