「The Snow Show」 八木夕菜
2004年冬、北極の彼方で今最も革新的なアーティストと建築家の雪と氷で出来たコラボレーション作品が出現した。
フィンランドはラップランド地方、ケミ市とロヴァニエミ市で国際文化イベント「The Snow Show」が今年2月12日から雪が溶けるまで(3月下旬)開催されている。
スノーショーは、ニューヨークを拠点に活躍するキュレーター、ランス・ファンとロヴァニエミ美術館ディレクターであるヒルッカ・リンカネンが共同企画した独創的な国際文化イベント。安藤忠雄、磯崎新、ヨウコ・オノ、宮島達男、Zaha Hadid,LOT/ek,Anamorphosis,Kiki Simithなど15組の強い個性を持ったクリエーター達がそれぞれのアイデアやアイデンティティーをぶつけ合い、融合させ、空間的、視覚的に訴えかけるのだ。
たとえば
Zaha Hadid + Cai Guo Qiangは、Hadidが得意とする幾何学的な形態とGuo Qiangの火を用いた実験的なパフォーマンスアートが融合するという驚異的な作品。氷と雪で同じ形を造り、コンディションが次から次へとトランスフォームする本質を表現している。
Diller + Scofidio + John RoloffのPURE MIXは地政学的なアプローチ。ケミ市の湖氷にグリッド状に81個の穴を空け、世界中のブランド水を注ぎ込み、ロゴを入れる事により、自然水が純粋化されるのだ。
安藤忠雄+宮島達男は、2人の共通点である『連続+時間』から、安藤の氷をアーチ状に積み上げ、トンネルのように連続した空間と宮島の連続したデジタルの数字が上手くコラボレートされた作品。『ICED TIIME TUNNEL』
Studio Granda + Lothar Hempel は、あえて氷と雪をマテリアルには使用せず、水、湯、蒸気、と水の全ての状態を活かした作品。信号機と錆びた自転車を中心に配置し、その周囲に熱パイプを置いて雪を溶かすとプールが出来る。気温が低い為、蒸気がゆらゆらと舞い上がる。
など、15組みのうちいくつかを紹介するだけでも、ドキドキするほどだ。
ニューヨークで建築デザインを学ぶ学生として、昨夏からこの企画に加わってきた私はスノーショーが開催される1ヶ月前に完璧な防寒具を備え、『雪と氷の建築?10日間の旅』極寒フィンランド首都のヘルシンキからさらに北方1時間半に位置するロヴァニエミ市へと、ニューヨークを後に飛び立った。日照時間の短い北極圏で飛行機内から真っ白な雲間に光を見つけ、なんて幻想的な国だろうと胸を躍らせていた。しかし、私が到着したその日から、オフィスの雰囲気は緊迫していた。今年は暖冬の為、例年よりも雪が少ない、ボランティア学生用宿泊施設の不備、人手不足、コンピュータ等機材の不足、コンストラクションの延期、アーティストや建築家とのミスコミュニケーション等問題が山積みだった。様々な国からボランティアとして集まった学生達は、参加アーティストや建築家の斬新で壮大な発想や創造を実現させようと、皆が一丸となり、試行錯誤しながら支えていた。この企画、コラボレーションはまるで水から氷や雪になるプロセスのように、凝結し、砕け、また溶かしてゆくさながらだった。
従来の芸術や建築に使われる建材/材料とはまるで違う氷と雪で造る為、氷と雪のエンジニアが影で大きな支えになっている。巨大で複雑なストラクチャーを実現化するには様々な氷と雪に関する知識、アイデアやテクニック、道具が必要になる。どの作品もユニークで実験的で面白い。しかし、実現可能なのかと不安にさせるくらいのスケールと構造であったため、造る側は時間との対決にハラハラ、ドキドキ。ただ、『完成が見たい』と皆が一心同体になって働いていた。国籍、人種、文化、習慣、信じるものが異なっていても、感動する事は同じなのだ、と私は改めて感じ、このスノーショー自体がアーティストと建築家のコラボレーションだけではなく、全ての人とのコラボレーションだのだと気が付いた。キュレーター、アーティスト、建築家、エンジニア、コンストラクター、メディア、ボランティア全てはチームワークなのだ。
緊迫した空気のオフィスから抜け出し、到着したその日の夕方、といっても真夜中のように真っ暗なのだが、サイトへ足を運ばせた。作業は雪の白と空のダークグレーの中、ライトを照らし、夕方7時頃まで続いていた。未完成ではあるが、安藤とHADIDの作品を目の当たりにし、私は身震いをした。森の国フィンランド、木材で組み立てられた型と氷のコントラストがとても美しく、その土地の雰囲気とピッタリ。大きな氷のブロックは近くの湖からチェーンソーで切り抜いてきたもの。ロヴァニエミの湖にはミネラルがたくさん含まれている為、ブルーがかっている。ライトに照らされた時にその美しい色合いを引き出す。その隣では、高さ7mくらいの真っ白い雪の壁が異空間を創り出していた。
朝はなかなか日が昇らず、朝9時になってもまだ暗い。やっと太陽が全部顔を出すのは12時からたったの1時間。ここでは太陽は横に動くのだ。天気の良い日はオフィスまで零下15℃の気温の中、50分かけて歩いて行った。
華やかな企画の反面、作業は零下20℃から27℃という厳しい気候の中行われる為、体力は想像以上に消耗する。常に身体を動かして体温をある程度キープさせておくようにと、皆せっせと働く。私の仕事は幸いメディアアシスタントだったので、外での作業はほとんどなかった。
スチューデントハウジングの8畳ほどの意外と大きな部屋に10日間宿泊し、私の他にアメリカ人の大学生とアメリカ人アーティスト、デンマーク人の建築学生が一緒に住んでいた。パブリックサウナも近くにあり、9時までに行けば入れた(しかし、男女共有)。夜は別の部屋のリビングで食事を作り、大きなテーブルを囲んでみんなとスノーショーについての話や、母国の話、デザインや建築、文化についてなど、色んな話をした。
空気が澄んでいて美味しいから、夜の星を見ながらの散歩が気持ちいい。ずっと曇っていた空は最終日の夜には晴れ、気温も充分下がり、小さなオーロラを見る事が出来、帰りを惜しみながら、神秘的な気分に浸っていた。
様々な国の人達と友達になる事が出来たのが、私にとって今回の旅の最高の収穫だった。ハンガリー人やイタリア人、オランダ人、スペイン人、フランス人、皆、それぞれ自国を誇り、自分を大切にしているように感じた。今回フィンランドで行われたという事もあったが、私の他に日本人が一人も参加していなかった事にとても残念に思った。
こんなに素晴らしい体験をシェアしたいとそしてこんな体験ができることを広く知ってもらいたいと心から思った。
建築と芸術の境界線。機能する空間と機能しない美しい何かが融合した時、一体何が生まれるのか。機能しない空間、巨大な彫刻。キュレーターのランスは『建築は常に機能しなければならない』という概念を消し去り、自由で活発な、空間を雪と氷で創り出したと私は確信する。アートと建築。この二つ魅力は限りなく続く。
http://www.thesnowshow.net
PHOTO : Jeffrey Debany