【ヨシオカ トクジン展 ISSEY MIYAKE WATCH PROJECT・TO】
心が動かされるデザインを -吉岡徳仁氏-
吉行 文
名前が肩書きとなる人がいる。
ミュージシャン、アーティスト、デザイナー、小説家、料理人、演出家、俳優と名前とがイコールで結び付けられている人もいる。けれど、そういった既存の概念では表現したくない人たち。たとえそれが第三者のイメージだとしても。
「ようやく、“自分が何者であるか”という前提なしに仕事の話ができるようになってきました」
と吉岡氏は語る。柔らかい表情と、丁寧でありながら明確に発せられる言葉。プロダクトや椅子、照明、空間までジャンルを越えた作品を生み出してきた背後には、生みの苦しみと構築の繰り返しを経て、ひとつの完成形に辿り着く(その時々での)デザインへの様々な想いが滲んでいるようだった。
本展覧会の作品である、ISSEY MIYAKEプロデュースによる時計[TO/ティー・オー]の、ネーミングの意味を訊ねた。
「前進するようなイメージや、私からあなたへという意味あいも含まれています。それから、僕自身の名前、徳仁のTOもありますね」
9月20日のオープニングには、掻き分けて前へ進まなくては作品が観られないほどの人が訪れた。発光する白いアクリル台座のうえに、浮かび上がるように設置された産業用ロボット。その細い腕の先に、[TO]が取り付けられている。人の頭ごしに観たそれは、冒険の末に見出した宝物のように輝いていた。
デジタルではなく飽きのこない、永く使えるアナログの時計を、との依頼をイッセイミヤケの北村氏より請けた吉岡氏は、「決して時計からかけ離れたようなものではなく、時計の持つべき機能と物としての意味を考えて、新たな時計のデザイン」を模索し始めた。数え切れないほどの時計に触れ、自らの「欲しい⇔欲しくない」「必要⇔不必要」「いい⇔悪い」を起点に、徹底的に時計と向きあった。
時計本来の形と、それにふさわしい素材を備えた、時計として残りゆく革新的なものを描き、そして辿り着いた答えは、
「本物の質感、普遍性」。
この二要素だ。
「金属の塊から削り出したような、そんな時計が欲しかったんです」
と付け足した笑顔には、[TO]という新しい作品に対する自信と愛情が感じられた。
時計は、身につける人のコダワリが如実に現れるモノだと思う。
「時間を知ることができればいい」人は少なくなっている。毎日つける人、つけない人、休日ははずす人、仕事と休日でデザインをかえる人。数百円から数億円までの値段が流通する時計。この世に初めて機械式時計がヨーロッパで生まれてから、何百年という時間が流れ、これほど多種多様なデザインと機能を備えたものはなかなか見当たらないだろう。かのマリー・アントワネットもその生涯に、時計職人の息子ジャン・J・ルソー、時計職人にして劇作家ボー・マルシェ、そして時計ブランドの先駆者として今も名前が残るブレゲの3人にお金をつぎこんだというのだから、その魅力たるやいかに。
現代のものなのか、未来のものなのか分からないような時計をつくりたかったと、吉岡氏は続ける。
「シンプルであることも必要なかった。物で溢れているこの世の中で、単にシンプルなものは必要ないと思うんです」
彼が言った「時計として残りゆく革新的なもの」の、「革新的なもの」はつまり、「吉岡徳仁にしかできない表現を模索して、生みだされたもの」を意味するのだろう。
ビジネスの枠を超えて、デザインするその“モノ”と向き合って行われる究極の共同制作の過程でぶつかる問題や課題が、新しいデザインやイメージを生み出すこともあるという。
人が「コレはなんだろう」と感じるとき、心も同時に動かされている。見たことのないもの、初めて触れるものだけではなく、何度も見て知っているものでさえも、人はふと足をとめる。そういう「心が動かされるデザインをしたい」と言う吉岡氏。
9月30日(金)まで西麻布にあるギャラリーle bainにて開催されている【ヨシオカ トクジン展ISSEY MIYAKE WATCH PROJECT・TO】。この10月以降も、最低5つのプロジェクトが次々に公開予定になっている吉岡徳仁氏の、「産業用ロボットを使ったインスタレーションをしてみたかった」というコミカルで動きのある展覧会に足を運び、次なる作品に期待を膨らませてみる、“デザインの秋”。
最後に、吉岡氏にとって心が動かされるデザインとは何かを訊ねた。
「ミステリアスな要素を内包した、でもどこか心にひっかかるデザインのことです。心にひっかかると、それを理解しようとする働きが生まれる。そういうデザインを生み出していきたい」
▼【ヨシオカ トクジン展ISSEY MIYAKE WATCH PROJECT・TO】
[会期] 〜2005年9月30日(金)
[時間] 11:00〜19:00
*定休日は月曜/最終日は17:00まで
[会場] ギャラリーle bain
東京都港区西麻布3-16-28
03-3479-3843
[入場]:無料