DESIGN TODAY
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ハーナウ滞在記
鎌田治朗

2007/09/17
ジュエリーアーティストとして、ミュンヘンを拠点に活動している鎌田治朗です。
今回、この夏に滞在したハーナウというドイツの町のアーティスト・イン・レジデンスについてお話しします。
ハーナウはフランクフルト近郊に位置し、グリム兄弟が生まれた町として、そしてジュエリーの町として世界中に知られています。そこで2 年に一度、Stadtgoldschmied(ゴールドスミス・オブ・シティー)というアーティスト・イン・レジデンスの制度があり、僕は2007 年度のゴールドスミスとして今回滞在してきました。この制度は、アーティストが市から助成金を得て、6週間その町に住みながら作品を制作するというものです。仕事場になっていたZeichenakademieというジュエリー学校は250年という歴史を誇る学校で、Fabergeを始めバウハウスのChristian DellやHermann Jungerも輩出したことで知られています。

今回の僕の滞在中の課題は、学校とハーナウジュエリー美術館(Deutsches Goldschmiedehaus)でのレクチャー、学生を対象にした1週間のワークショップ(特別授業)、そして新作の制作でした。年齢的には学生と同じ位なので、最初Stadtgoldschmiedとして紹介された時、講師陣からは驚きの様子が窺えたのですが、レクチャーで作品を紹介した後は空気が変わり、全て円滑に物事が進むようになりました。
一番気を揉んだのはワークショップでしたが、学生にもやる気があり、面白い作品もいくつか出来上がっていました。通常、ワークショップとなると時間の制限があるので、マテリアルやアイテム、または大きさを制限したりして、取りあえず形から始められるようにするのですが、今回は、日常から瞬間の発掘をテーマに ”Snap Shot” と題して、自分自身の無意識の興味を発見する試みをしました。テーマが自由なだけ、最初学生はかなり戸惑っていましたし、僕自身本当に5日間で何かしら形になるのだろうかと不安だったのですが、最終的には予想以上の作品とアイディアが机に並びました。そして先日のワークショップのプレゼンでは、参加した学生が夏休み返上で完成させた作品を発表し、美術館の館長からも高い評価を得る事が出来ました。

ハーナウは実はハイテクな町としても知られていて、ダンロップ、ヘレウスを始め多くの企業の本社が存在します。その中のEssilorというメガネグラスメーカーの支社(日本ではニコン・エシロール)を、滞在期間中に訪ねる機会があり、かなりの数のグラスを提供してもらう事になりました。正直サングラスはもう・・・と思っていたのですが、今まで見た事の無いようなエフェクトのレンズや、高価な度入りのレンズを提供してもらい可能性が広がりました。これらを使った作品が僕の今後の課題です。

さて、肝心の僕の作品について。
今回、新作を作るにあたり、先ず、自分自身の興味をもう一度考え直す所から始めました。それは何なのか?
その結果、カメラレンズというマテリアルにたどり着きました。サングラスと同様にカメラレンズもまた光学レンズです。しかし、それ以上に興味をそそられたのはレンズ自身が持っているストーリー性です。僕は多くの古いのカメラレンズを集め始めました。そのレンズはものによっては50年も前のものもあります。記念撮影という言葉通り、人は大切な時の記憶として写真を撮ります。結婚、出産、入学、卒業・・・そして旅行に行く時に先ず持っていくもの、それはカメラです。レンズはそれぞれの所有者と共に世界中を回って様々な時代、そして多くのものを見てきました。そこに僕は価値があると思うし、だからこそジュエリーとして身に着けられるべきだと思います。それらのカメラレンズを分解して、レンズ部分のみを取り出し、ジュエリーに仕上げています。今後このシリーズを発展させていきます。
来年1月にはGoldschmiedehausでの個展が控えています。この美術館はドイツの建築を象徴するFachwerkhaus という様式の木組みの建物で、450 年という歴史をもっています。会場が広いのでここ10年間の回顧展になりますが、メインは新作の予定です。画像にあるショーケースは使わずにちょっと面白い展示をしようと考えているので、是非ご期待下さい。

鎌田治朗http://www.jirokamata.com/