長い旅

2009/07/08
 久しぶりにエコノミーで行く。こんな時代だから・・・、それに中国は近いからと、JALのマイレージを使って、エコノミーで十分だと高を括っての気楽な出発だった。
 先ず、出だしで成田のターミナルを間違えた・・・。言い訳はよそう。次に、中国東方航空との共同運航便だというので、ちょっと心配だったが、狭いけれど、いつものように通路側だから上海での乗り換えまでの三時間程度と、ハッピーな気分でいたのだが、それからが大変だった。
 やっと、上海空港に到着してホッとした矢先、真っ白な防疫服に身を固めた数人の検疫官が乗り込んできた。その時も「へ〜、これか・・・」と噂の風景を楽しんでいた、のんびりと・・・。
 だが、なかなか終わらない・・・。異様な空気が漂い始めた。後部座席に高熱の乗客がいるという・・・。結局、3時間あまり、上海空港の機内に閉じ込められることになった。まさに、今の時代の象徴的な事件に遭遇したわけだ。
 ところがそれだけでは終わらなかった。偶然、僕は前の方の席にいたから早く降りられたのだが、西安行きに乗り換えるトランジットの僕が案内されたのは、乗り換えの狭い待合室である。乗客が一杯で、空いた椅子はない。とにかく、熱気がむんむんである。これも、せいぜい30分程度だと我慢する。ところが、それからがまたまた大変だった。

 一部の乗客と空港の係官の間でいざこざが始まる。罵倒する数人の乗客と、誰も助けをださないで困惑する係官達・・・。
 きっとこんな様子で紅衛兵達は知識人達を罵ったのだろう。意味は不明でも、その強烈な罵倒のエネルギーは信じられない程である。身体をふるって大声を出し、人差し指を相手の顔に指して何度となく罵倒する。女性が加わって黄色い声をして、これまた罵倒する。気性の激しさと、気品や他者への配慮の全くない狼藉に中国人という人種の恐ろしさを感じてしまう。あんなにいい人が居るのに・・・と、上海の友人の顔が浮かぶ。
 隣にいた若い女性が声を掛けてきた。僕が困惑しているのを感じたのだろうか?顔は少数民族の系統かな?ちょっと田舎っぽいが、妙に自信に満ちて英語を操っている。西安に帰国途中の留学生だった。田舎っぽさと今っぽさと誇りとが混ざった若者だった。喧嘩のおおよその原因を語ってくれた。チケットのキャンセル待ちに関することだったらしい。
 地獄の待合室で待つこと二時間半。新型インフルエンザで、使うはずだった機体が使えないので取り替えたせいらしい。本来なら、成田から乗ってきた同じ機体の同じ席に戻るはずだったのだが・・・。それでもやっと機上の人になる。
 上海から西安は、せいぜい40分か50分と、軽く見ていた僕は再びショックを受けることになる。2時間と40分だという。中国東方航空の狭い機内。酷い料理。椅子はほんの少しさえもリクライニングしない。眠ると頭が前に倒れる・・・。それ程、背中が立っている。
 オフィスで午前中仕事をして、そこを出たのが1時半過ぎ・・・。そして、西安のシャングリラホテルに到着したのが、深夜の3時半だった。
 
 今、上海空港で成田行きの帰り便を待っている。前に座る中国の女性と、小学生らしい二人の男女の子供達。子供達は大声を上げて椅子の周りを走り回っている。子供達に母親は何も注意しない・・・。隣の男性は大声で、携帯電話で話している。中国語だから話の内容は分からない。
 動物だった人間が、次第に社会を作り上げ、一緒に生きる術を色々と手に入れてきた。人への思いやりや作法や法律や・・・、邪魔になることも多いこの社会生活を支える約束事が、野性的な人々の優れた資質である天真爛漫な自然さとの間で軋んでいる。僕は、社会性を持つ上品な人間がいい・・・、などとは思っていない。それによって、多くの動物的な能力を失ってきたからである。

 「中国は、色々なことを考えさせてくれる・・・」。僕はこの旅の出来事を、こうくくりたいと思う。

(2009, 6,24)