DESIGN TODAY
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一本のストローから・・・オーストリア滞在記 part Ⅲ
by sound artist mamoru

2009/07/15
 雪降るオーストリアに着いてから4ヶ月以上が過ぎ、カフェやレストランでも知っているメニューが増えて来て、注文や支払いくらいは出来るようになり、色々な人たちとの交流も深まり、オーストリア独特のいい加減さになんだかんだと言いつつ、だんだん染まってきた・・・。そんな矢先に帰国の日がやってきました。そんなものなのでしょうね、旅ですから、あくまでも。
 この滞在記も今回が最終稿。前回の記事以降の仕事、滞在全体を通じて感じたことなどを書かせて頂こうと思います。
▼ garnison7スタジオとパフォーマンスの様子

 5月に入って、しばらくしてミュージアムクオーター(MQ)のレジデンスから引っ越しました。最後の滞在先は、ウィーンの音楽仲間が運営している実験音楽を、主に対象とした地下録音スタジオの一室です。
 “garnison7”という、住所そのままの名のスペースですが、ほぼ手作りなのです。こちらでは、普通のアパートなどでも自分達で手を入れたりしますが、音楽スタジオとなると、なかなかないことです。

 運営に関わっている人達は、音楽家、音響、録音の専門家が多いのですが、基本的には会員制のようなスタイルで共同運営みたいにしています。スタジオ内にあるいくつかのスペースをテナント貸しをして、家賃収入を得たり、国や市などの助成金が色々とあるので、申請中とのことでした。 
 ちなみに、オーストリアでは、プロとして芸術活動を行っている場合、税金面での優遇措置もあります。こういう話は海外に行くと良く聞くのですが、社会的に芸術家というのが認知されているような気がして、羨ましく思います。

 “garnison7”では、レコーディングコンサートがほぼ毎週のようにあり、それらは録音され、アーカイブされます。ヨーロッパ各地、アメリカ、カナダなどのアーティストが頻繁にパフォーマンスしていました。私も滞在中に3回ほどパフォーマンスする機会があり、普段はソロでパフォーマンスすることが基本なのですが、“garnison7”滞在中は、色々と他のアーティストが誘ってくれて、セッションするチャンスも多くありました。





▼ 新しく思いついた音道具
▼ コンチェルトハウスにて        

 そんな中で、新しい音道具を思いつくことも多々あり、そのうちの幾つかを形にしてみました。画像にあるのは、電池式ミルク泡立て機(?)を改造したもので、モーターの回転数をつまみで変えれるようにし、最大4本つなげれるようにしてあります。瓶、プラスチック容器、水の入ったペットボトルなどに回転部分が当たるようにして、それぞれ別の音を発生させるように作られています。回転数を落として、静かにカタカタと言わせることもできますし、最大に回転速度をあげて「轟音」を発生させることもできます。おもちゃと言われればそれまでですが・・・(笑)、コンチェルトハウスという非常に伝統と格式のあるコンサート会場で、ウィーンの音楽家2人とトリオを組んで演奏した際に、この「おもちゃ」をデビューさせました。コンチェルトハウス内にもいくつか会場があり、メイン会場ではクラシックやジャズなどが盛んに演奏されているのですが、地下に実験音楽などを主に行うスペースもあるのです。










▼ MUMOKでのプレゼンやパフォーマンス

 5月の最終週はMUMOK(ウィーン近代美術館)にて行われた“coded cultures”という、オーストリア−日本年に関連した、割と大規模なアートフェスティバルに参加していたため、とても忙しかったです。私は、パフォーマンス、プレゼンテーション、ワークショップと、細々としたものも含めると、短期間にあれこれやっていました。私のブログの方にも書いているので、そちらを見ていただければ幸いです。

 “coded cultures”では、名前が示す通り、現代社会をコード化されたものと考えて、それをさらにdecode(解読)、recode(再構築)する、アートやアーティストの動向を取り上げていました。参加者はアーティスト以外にも、科学者、理論家、批評家、キュレーターなど様々で、展示、プレゼン、レクチャー、ワークショップなどが開催されました。
 個人的に聴いてみたいレクチャーも沢山あったのですが、本当に残念ながら自分の作品準備などに追われていたため、ほとんど聴講できませんでした。(今年10月中旬には、横浜で日本側のフェスティバルがもたれるようで、その後、今回のフェス全体の記録が出版されると聞いているので、そちらを待つばかりです。)

 decode(解読)やrecode(再構築)は、私の現在の制作の中でも常に介在する問題で、今回の滞在中に考えていたところとも通じるところがあります。言葉にすると、少しまわりくどいですが、現代のクリエイティブの中心は「生産」というよりは「消費」なのではないだろうか・・・?ということです。
 例えば、セレクトショップ。膨大な商品群から、誰かがセレクトすることであるものが価値を持つ・・・。これは何かを作るというよりも、消費の第一段階「選ぶ」という行為を売っているわけです。
 考えてみると、物だけでなく、情報(主にマスメディア発信の)ライフスタイルや価値観などでさえ、消費の対象になっている世の中なわけで、何をいかに消費するかというのは、実は、想像以上に実生活に等しい現象です。むしろ、「生産」と結びつきそうな、アートやデザインという行為でさえ、実は現代では既に「消費」に焦点が移行しているという事実は、もっと意識されても良いことかもしれません。
 私たちは消費する生き物です。突き詰めて考えれば、生きることは消費すること、と言ってしまえる部分があります。だからこそ、消費行動を動かしている、ありとあらゆる要素をdecodeし、recodeすることは、実に複雑なのですが、現行の「経済システム」自体がぐらぐらと崩壊しはじめた今こそ、あらゆるクリエイティブな人達に、最も求められることかもしれません。

▼ 作品に使われた瓶詰ヨーグルト

 私が、今回オーストリアで取り組んだ作品の一つが瓶詰めのヨーグルトから作品を作ることだったのですが、これも、「ある食品を食べる、洗う(日常の消費行為)」をアートに変換することで、成立する消費プロセスを背景にした作品なのです。
 書いてしまうと、色気も何もありませんが、実際にやってみると結末が意外なので、くすぐったいような独特のおかしさがあります。普段やっている行為がサンプリングされ、リミックスされることで、通常ゴミ箱に収まるモノが、アートとして鑑賞されるのです。
 分解すれば、ただ食べて、洗って、という同じプロセスなのですが方向性を変えるだけで価値が変わる。しかも、実感として、ちょっと欲しくなるくらいの感じで・・・。(もちろん人によりますが)


▼ スタジオにてカリンさんと
           ▼ イスのお店 “sitzflache”

 前回の記事で紹介した、カリンさんにしてもそうですし、滞在中によく通ったカフェで見かけた“breaded secalope design studio”という、ユニット制作のバケツを使ったランプシェードなどもそうですが、メッセージや疑問を消費者に投げかける行為が含まれていて、単なるリサイクルやアイデア商品というのではなく、消費コンセプトを提示する、recode現象が見られる気がします。
 帰国する直前に、前回の寄稿で商会したデザイナーのカリンさんが連れて行ってくれた椅子のお店“sitzflache”でも、ちょっとしたrecode現象を垣間見ました。見た目にもやられましたが、よく見ると、案外、普通の(ものすごくアンティークとかデザイナーものではないという意味です)椅子も中には多くあって、オーナーさんが独自目線で選んだだけ、と言ってしまえばそれまでですが、既存の価値や基準にとらわれないという意味では、一種のrecodeじゃないか?、と思ったら新鮮でした。







▼ ストローで作った作品 "etude"
▼ ストロー募金              

 最初の記事で紹介した、私のストローの作品にも実は面白い音ということ以外に、消費行動の裏にあるのは、金銭的な価値基準や感覚をdecodeする、という大胆不適な目論みがあります。普段、決してお金を払ったりはしない「価値が無い」と思われているものに対して、お金を出させてしまう仕組みをストロー1本で生み出せるかどうか、そんな実験です。
 実際には、展示やパフォーマンスの際に、ストローを配布する時は寄付をお願いしていて、これは、ただ受け身で消費する行為から、自分で価値を判断して、行動する、そんな“etude”練習曲でもあるのです。
 
 ユーモアやパッケージの力はとても大事な「入り口」として存在しています。楽しいと感じたり、面白いと思ったり、興味をもつ、ということがどれほどの価値があるのか、感じてもらえたらと思っています。そして、実際にお金を使うことで、その人自身の価値基準はupdateされてしまう。そんな秘かな希望を持ちつつ、私はあちこちでストローを吹き、皆さんにも楽しく吹いてもらっています。「一本のストローで人生が変わる」半分冗談の様なコピーを、いつも手書きで書いてストローの横においています。でも、実は、本気なのです。消費する側がその気になれば、人生が変わるくらいの影響力を持たせられるのです。
 実際に、色々な国で、様々な年代の人達が各人各様の表情でストローを吹く姿を目の当たりにし、いよいよ私は確信しているのです。きっと「一本のストローで人生が変わる」ことは可能だと。社会全体から見れば、あまりにも些細な行動かもしれません。でも、私の“etude”もしつこく続ければ、実は「超消費社会において希望をみつけるための練習曲」となり得るのでは、と・・・。
 なので、まだまだ今後もあちらこちらに出向いて、あれこれ考え、いろいろと作って行きたいと思います。

 今月には、東京、大阪にて帰国報告会をする予定です。もしも、お時間とご興味があれば、是非お越し下さい。こちらで紹介させて頂いた作品のいくつかも、実際に、触れたり聴いたりできると思います。

 三度にわたって、記事を書かせて頂いてありがとうございました。読んで下さった方々に、お礼申し上げます。偏った考えや、不正確な情報等があったかもしれませんが、悪しからずご了承下さい。ご意見・ご感想などあれば、下記のE-mailアドレスまで、宜しくお願いします。


 ーーー 帰国報告会 "etude for everyday objects" ーーー

■ 東京(1day, 2ssts)
 日時:2009年7月19日(日)
     1st set・・・ open 15:00〜 / start 15:30〜
    2nd set・・・ open 19:30〜 / start 20:00〜
 場所:gift_lab (渋谷区恵比寿西1-16-1 丸山ビル2F)
    URL ▶ http://www.giftlab.jp/
 チャージ:2,000円(1ドリンク込)
 予約方法:名前・人数・参加希望の開催時間を明記し、E-mailにて要申込。
      E-mail ▶ mamoru@afewnotes.com
 
■ 大阪(2days)
 日時:2009年7月25日(土)・・・open 17:30〜 / start 18:00〜
    2009年7月26日(日)・・・open 17:30〜 / start 18:00〜
 場所:AD & A gallery (大阪市西区京町堀1-6-12)
    URL ▶ http://www.adanda.jp/event/090725.html
 チャージ:2,000円(お茶の用意あり。但し、アルコールは有料。)
 予約方法:名前・人数・参加希望日を明記し、E-mailにて要申込。
      E-mail ▶ mamoru@afewnotes.com

※イベントのe-フライヤー
 ▶ http://homepage3.nifty.com/afewnotes/etude_09_summer.html



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